てんかんについて

はじめに:
                                             
 
てんかんは大脳の病気です。

大脳は脳細胞と細胞同士を繋げる神経線維とからなっています。

そして、この脳細胞同士が神経線維により複雑に連絡をとって働いています。

人と人とが会ったときの行動がどのように大脳に支配されているか見てみましょう。

目から相手の顔やしぐさが視覚を司る脳細胞(視覚野〉に伝えられます。

耳からは相手の話が聴覚を司る脳細胞(聴覚野)に伝えられます。

触覚、臭覚も同様です。

これらの情報は前頭に集められ総合的に判断されて次の行動に移されます。

仲良くしたい人だと判断されると握手をしようと手を動かす

脳細胞(運動野の一部)に命令が伝えられ、

次いで筋肉に命令が伝えられます。

そのため脳細胞が障碍されると障害を受けた脳の場所によって、

運動麻痺、視覚や聴覚障碍などがおこり、障碍の範囲が広いと

知的障碍、情緒障碍、などがおこります。

てんかんも大脳の障碍のある場所により様々な種類のものがおこります。

                  

てんかんとは:
                                         
 大脳細胞からは細胞同士の連絡のため弱い電流が出ています

この電流によって情報の受け渡しがなされています。

ところが障害を受けた脳細胞から時に異常電流が出ることがあります。

右手の運動を司るところから異常電流が出ると

右手の痙攣(けいれん)が起こります。

異常電流を抑制する働きがしっかりしていれば、右手の痙攣だけで止まります。

しかし抑制する働きが弱い時や、電流がもっと強力なときは脳全体に拡がり、

意識が失われて全身痙攣に発展します。

脳の中心に異常電流が発生すると全身痙攣や意識消失が起こります。

これらの異常電流の発生の仕方によって

様々な種類の「てんかん」が発病します。

日本では「てんかん」患者さんは百万人以上いると推測されています。


診断と原因 :

                                                
 脳細胞から出ている電流を観察するため脳波の検査が欠かせません。

異常電流の出現部位、拡がり方、出現の形を観察します。

音、光などの刺激に対する反応も見ます。

眠った状態の記録は情報豊富なので

検査のときに眠むれるように睡眠不足で来院するとよいでしょう。

原因の判っている人は約半分です。

幼少時では生まれながらの脳の形成異常、周産期(出産前後)の脳障碍、

脳炎後遺症、遺伝性のものがあります。

大人になると脳炎や事故などで頭に外傷を受けた後遺症、

脳卒中の後遺症などが多くなります。

「てんかん」ではありませんが時には脳腫瘍で痙攣を起こすこともあります。

これらの脳の異常を調べるためにCT,MRIなどの検査で

脳の異常な形態や脳の血管異常、

時にはPETで脳の代謝をしらべます。

これらの検査と併せて、どんな痙攣があったのかを身近に見ていた人から

教えてもらい診断します。

最近は家庭用ビデオがあるので、録画して見せて頂くと、とても参考になります。

遺伝性のてんかんのそのほとんどは抗てんかん薬で

容易にコントロールできるものが多いです。

     


                      

 てんかんの分類と種類:

 てんかんは一つの病気ではなく、脳に異常電気が発生し痙攣をおこしたり、

意識が薄れたりする症状を持ついくつかの病気の総称です。

それ故に「抗てんかん薬」もてんかんの種類によって使い分けしないといけません。

ある種のてんかんにはよく効く抗てんかん薬も別の種類のてんかんには

かえって症状を悪くすることがあります。

このため「どんな種類のてんかん」か?を

しっかり見極めないと治療はうまくいきません。

いろいろな分類の方法がありますが、ここでは発作の型による分類をお話します。

まず、焦点的な発作と全般発作に分けます。

全般発作には全身を硬くしその後ガクガク痙攣し、

意識もなくなる発作、ビクンとする発作と意識がなくなるだけの発作などに分かれます。

痙攣発作の前に前触れがある場合と無い場合があります。

前触れがあると焦点発作の全般化したものと解釈でき、

前触れで危険回避行動が取れるので安心です。

しかし幼弱な脳をもつ子供の場合は、焦点発作でも脳の抑制系の発達が充分でなく、

いきなり全般化するので危険を伴うことがあります。

焦点発作では意識が保たれていて身体の一部だけの痙攣で終わるものと、

痙攣が全身に及ぶものがあります。

この痙攣発作のときに意識が保たれている発作と意識がなくなる発作に分けます。

この発作型と原因が生まれつきか、後からの障碍によるものか?

その他の症状を組み合わせて、てんかんの種類を決めます。 


以下もっと詳しく記載します。具体的な病状は各自お調べください。


              てんかん発作の分類(2010年)

        
全般発作

         欠神発作

          定型欠神発作

          非定型欠神発作

          ミオクロニー発作

          ミオクロニー発作

          ミオクロニー脱力発作

          ミオクロニー強直発作

         間代発作

         強直発作

         強直間代発作

         脱力発作

        
焦点発作

         意識障害なし

         意識障害あり

         両側けいれん発作への進展

       
 未分類てんかん発作

     発作型が決まると適切な抗てんかん薬が決まる。



        
抗てんかん薬の選択

  
 焦点発作には CBZ LEV LTG

            
避けるべき薬剤は  ESM

  
 全般てんかんには VPA

          
  避けるべき薬剤は

            
 欠神発作には DPH CBZ GBP

             ミオクローヌス発作には CBZ GBP LTG

             強直間代発作には ESM

      


                     
                     

            以下の分類でさらに微調整します。 


          
脳波臨床症候群


     乳新生児期

      良性家族性新生児てんかん
      早期ミオクロニー脳症

     大田原症候群

     乳児期
      勇壮性発作を伴う乳児てんかん

      West症候群
      乳児ミオクローヌスてんかん
      良性乳児てんかん
      良性家族性てんかん
      Dravet症候群
      非進行性疾患のミオクロニー脳症



     小児期

       熱性けいれん+

       早期良性小児側頭葉てんかん症候群

       ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん

       中心側頭葉棘波を示す良性てんかん 

       常染色体優性夜間前頭葉てんかん

       遅発性小児後頭葉てんかん(Gasutau型)

       Panayiotopoulos症候群

       ミオクロニー欠神てんかん

       Lennox-Gastaut症候群

       睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん脳症

       Landau-Kleffner症候群

       小児欠神てんかん


     青年期―成人期

       若年性欠神てんかん

       若年性ミオクロニーてんかん

       全般強直間代発作の身を示すてんかん

       進行性ミオクローヌスてんかん

       聴覚症状を伴う常染色体優性てんかん

       その他の家族性側頭葉てんかん

     年齢と関連性が低いもの

       多様な焦点を示す家族性焦点性てんかん

       反射てんかん


     明確な特定症候群

        海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん 

        Rasmussen症候群


        視床下部過誤腫による笑い発作

        片側けいれん、片麻痺、てんかん

   
   構造的/代謝性の原因に帰するてんかん

     皮質形成異常(偏側巨脳症、異所性灰白質など)

     神経皮膚症候群(結節性硬化症、Sturge-Weberなど)

     腫瘍

     感染

     外傷

     血管腫

     周産期障碍

     脳卒中

     その他


       
 原因不明のてんかん

      てんかん発作を伴う疾患であるが、

       それ自体は従来の分類ではてんかん型として分類されないもの

      良性新生児発作

      熱性けいれん



     以下は2010年版の使いずらさを見直し改定した  更新
          新しいてんかん診療の指標です。

2017年 国際抗てんかん連盟によるてんかん分類体系の紹介

      
   てんかん臨床医は少なくとも上記「てんかん病型」までは鑑別せよ!
   できれば「てんかん症候群」まで診断できれば良いのだが....。

          
以下、発作型を詳しく記載する
      
てんかん発作の分類(2010年)とほとんど変わらないが
   
 スマホ等による発作時の記録と脳波を組み合わせて発作型をきめる。
 脳波、ビデオ同時記録装置があればもっと便利なのだが、限られた施設にしかない

    

     

       
       

「てんかん」の診断と並行して病因の検索、併存症への配慮を!


   MRI、CT、SPECT、遺伝子診断 などを
                 使って検査が必要なこともある。
    

        てんかん診療ガイドライン2018 
    
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html
        詳しく知りたい方は参考にしてください。

   
                    

「てんかん」の治療

  
先ずは「抗てんかん薬」で治療します。

抗てんかん薬は副作用の危険性を少なくし、

生き生きと日常生活を送ってもらうために

出来るだけ少ない量と種類で治療することが大切です。

個人によって薬の効き具合がずいぶん違い、

様々な副作用が出ることがあるので、

定期的に診察してもらい、副作用の有無とてんかん薬が必要量

からだの中にあるかどうか血液検査をしてもらってください。

脳の電気的異常が治まってきたかどうかを調べるために脳波検査もしてください。

この薬物治療で約7割の人が発作から解放されます。


残りの約3割の人は発作のコントロールが薬物療法だけではうまくいきません。

とくに難治性の発作で日常生活が妨げられる時は

手術で治せる場合がありますので

主治医の先生と相談するとよいでしょう。

お薬が効いて発作が無くなったからといって、勝手に薬の量を減らしたり、

薬をやめると発作が再発することが多いので素人判断はやめましょう。

食事を忘れても、お薬は決められた量を確実に服用し続けてください。

万一飲み忘れたときは、2回分を一度に服用してもかまいません。

その時は眠気に注意してください。

下痢で薬の吸収が悪くなったり、

発熱などで発作が起こりやすくなることがありますから、

主治医にそのつど連絡を取って適切なアドバイスをもらいましょう。

グレープフルーツジュースやお酒でお薬は飲まないでください。

薬の効果に変化が起こります。

風邪などでほかの薬を処方してもらう時には

必ず今「抗てんかん薬」を飲んでいる事を診てもらう医師に知らせてください。
薬の相互作用で、てんかんの効果に悪影響を与える薬もあります。
以下「てんかんに悪い薬」を参考にしてください。

主治医には精神科、神経内科、小児科、脳外科、内科医の中で

できたら、「てんかん」を得意としている方になってもらいましょう。

「てんかん」を得意としている方が近くにいなくて、

かかりつけ医に診ていただいている時は

年に一度は「てんかん」を得意としている医師を紹介してもらい

診察や検査を受けるとよいでしょう。

てんかんに悪い薬 

 
眠くなる抗ヒスタミン剤 : テルギンG ザジデン ポララミン ペリアクチン 
             タベジール セルテクトなど 
鼻汁、かゆみ止めに処方
 ニューキノロン系抗生剤 : オゼックス バクシダール オラペネム
             トスキサシンなど 
肺炎 中等症以上の中耳炎などに処方  
 
アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛剤の併用でもっと悪くなる : 
             
ロキソニン ボルタレンなど
             





      妊婦の薬物動態   次の3点に注意を


   
胎盤透過性
    母乳への移行性
   
催奇形性

     葉酸を1日に0.4mgの服用で神経管欠損を予防。

   
妊娠時は組織間液量や循環血液量が増加し、水分が増える結果、

   アルブミン濃度が低下する。これにより遊離型薬物が増加する。

   遊離型薬物では腎排泄が増加し、血中薬物濃度が低下する。

   一方、胎盤透過率、脳内移行率が増加する。

   薬物の母乳への移行は遊離薬物の受動拡散による。


  催奇形性について

奇形率はLTG単剤では2.4倍と低いがVPAを加えると10.8倍と高率に、

VPA以外の薬剤を加えても2.8倍程度にしか増えない。
  

そのため

VPA(デパケン、セレニカ)を妊婦が服用する際には注意ください。

どうしても使用するときは1000mg/日を超えないように、

できれば600mg以下が良いでしょう

今後はVPAの代わりに
LEVLTGが催奇形性が少ないので使用されるでしょう

日常生活は、発作がなければ制限しません。

子供の場合、病気を恐れて制限しすぎたり、

かわいそうだと甘やかすと精神発達に悪影響を及ぼします。

周囲の人が「てんかん」をもった人が生活しやすいように

お手伝いしてあげることがとても重要です。

生活の基本は充分な睡眠、規則正しい活気のある生活です。

現代は車社会ですが、


車の運転は発作が充分にコントロールできるまでは決してしてはいけません。

発作が原因で事故を起こすと被害者、加害者双方が苦しまなければなりません。 


                         

 てんかん」の治癒とは?                                   

 残念ながら現時点では「治癒」の確実な指標はありません。

そろそろ治ったかな?!といった各々の医師の経験に頼るしかありません。

ある医師は3−5年発作がコントロールできていれば

、脳波に異常が残っていてもそろそろよいかな?!

ある医師は過去2年間の脳波が正常で発作も起こっていなければよいだろう!

と各医師でまちまちです。

経験的には知的障害のある方は再発が多い。

脳波の発達が正常で発作波が消失した人は治っていることが多い。

てんかんの種類によっては思春期に薬をやめると再発が多い。などです。

小児期に発症したてんかんの約半分は直ります。

薬の止めどきは主治医とよく相談をして

再発の可能性は何パーセントくらいなら止めてみようか!

止めるにあたっての心構え、つまり再発したときの対策を充分してから、

少なくとも数ヶ月かけて漸減中止してください。

いきなり止めてはいけません。

抗てんかん薬を止めても2年間は脳波などの検査と経過観察が必要です。



    
発作再発に関しての脳波との関係

発作が3年以上なく、脳波のてんかん性放電も1−2年間ない場合は

                    再発率は2.1−9%である


外国に比して日本からの報告で再発率が低いのは、脳波を考慮しているため。

だだし、てんかん放電の消失を断薬の条件にすると、発作が無いのに長期にわたり

服薬することになり、患者にとっては必ずしも有益とはならない。

断薬時のてんかん性放電と再発の関係では、ある場合は相対危険は1,45.

てんかん性放電の中でも不規則性全般性棘徐波があれば再発率は67%に対し

その他のてんかん性放電では33%である。

脳波で徐波があれば特発性てんかんでは再発しやすいが、

               症候性てんかんでは脳波異常とは無関係との報告もある。



断薬、減薬を望む方に知って欲しいこと

急に中止しないで、徐々に減薬してください。


16歳以降の断薬は相対危険度は1.75

再発の可能性の高いのは減薬中と断薬後1年間。

発作型、てんかん症候群によって再発率が違う。

 
若年性ミオクロニーてんかんでは再発が多い。

 
BECT(Rolandてんかん) パナエトポラス型では数年で自然治癒する。

知的障害があると再発が多い。


再発危険因子としては極度の過労、睡眠不足、過度のストレスなど。

脳波の悪化で再発の相対危険度は1.45。

再発した場合、多くは以前の薬で発作は押さえられるが、時には出来ないこともある。

再発時の生活や就業時のデメリットは何かを考えておく。

自動車運転は減薬中、断薬後1年間は運転しないでください。
  

       発作時に観察する点          ビデオを活用ください。

                                   
1) からだのどの部分からどのような型で始まりましたか?              

2) どのくらいの時間続きましたか?                                     

3) 意識はありましたか?呼びかけに反応しましたか?

目は白目を剥いていましたか?

* 左右どちらかに偏って いましたか?                            

) 顔色、唇の色はどうでしたか?チアノーゼ(青藍色)がありましたか?      

5) 発作を起こす前に何か変わったことは無かったですか?           

6) おしっこやウンチを漏らしましたか?                           

7) 発作の後に頭痛、一時的に手足の麻痺は無かったですか?  
        

    発作時の対応と処置               
                                  

まずは、落ちついてください。発作の多くは1−2分で 治まります。

生命に別状があったり病気が重くなることは稀です。

しかし、発作が長引いたり、次からつぎと発作が繰り返すときは直ぐに受診ください。                          

) 危険を避けるため、周囲に危険物があれば遠ざけるか、

安全な場所に体を移してください。

* 立っていたら倒れて頭を傷つけないように支えてください。      

) 衣服を緩めて、唾や痰がのどに詰まらないように顔を横に向けてください。  

3) 舌をかまないかぎり、閉じている口を無理にこじ開けたり、

* 舌をかまないようにと物を突っ込まないでください。

* 無理をすると 歯や歯茎(しにく)を傷めたり、窒息の原因になります。               

4) 吐物や痰(たん〉はふき取ってあげてください。                       

5) 意識がしっかり戻るまで付き添って静かに寝かせてあげてください。

 

参考のために

日本てんかん協会(波の会)に連絡をとると、有益な情報が得られますし、

病気を克服するため励まし合える仲間ができます。


社団法人 日本てんかん協会 (別名波の会) 石川県支部

所在地  〒920-0053  金沢市若宮町 2−68 二口方

   TEL 076-231-3465

   FAX 076-231-3465

   波の会のホームページ  http://www.jea-net.jp/index.html

  モーツアルト効果 :モーツァルトを毎日聴くとてんかんの発作が減少するとの研究結果 - GIGAZINE

おわりに

一人でくよくよ思い悩まないことです。

「てんかん」はまだまだ偏見と誤解のある病気ですが、

シーザー、ジャンヌダルク、ゴッホ、ドストエフスキー、も「てんかん」でした。

それでも歴史に残る立派な仕事をしました。

信頼の於ける主治医をみつけて病気に負けないで生活してください。 

もっと詳しく知りたい方は「リンク集」の中の

        「てんかんINFO」などを見てください。